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2009年11月 1日 (日)

【雑文】さらば円楽さん


 「といったところで、笑点今週はお開き!」
 「来週をお楽しみに、ありがとうございました」

 ガハハと笑う笑顔が、まぶたに焼き付いています。

 円楽さん。
 逝くのが早すぎますよ。
 あの世の寄席から、そんなに大金積まれたんですか?
 若竹の借金は、もう返したはずでしょう。

 悲しさに、昨日からぼんやりしています。

 十年以上も前のこと。
 東京の鈴本だったでしょうか。
 円楽師匠の「浜野矩随」を聞いて、号泣しました。

 当時、仕事に不満だらけでした。
 望んで入ったはずの会社なのに、2級職場と蔑まれる部署に
回され、顧客向けの資料を加工するだけの日々。

 同期は現場を飛び歩き、大手のクライアントと大口の契約を
まとめたり、海外で事業を立ち上げたり。
 それと引き換え、オレは何をやっているんだろうと、焦りが
募っていました。

 「オレはこんな所にいる人間じゃない」

 毎日会社に行くたびに、恨みつらみで一杯でした。

 当然、業務成績も下位。
 ミスも多く、顧客にも上司にも疎まれ、退職勧告を受けてい
ました。

 しかし、妻子がいました。養わなければならない。
 転職先が見つかるまでは、我慢せざるを得ない。
 ウツ一歩手前でした。

 そんなとき、寄席へ入りました。
 昼席だったと思います。
 たぶんさぼっていたのでしょうが、ばれても知ったことかと
、なかばヤケになっていたのかも知れません。

 大トリに出てきたのが円楽さんでした。

 「浜野矩随」(はまののりゆき)は、ご存じの方も多いと思
いますが、古典落語の一つで、そのジャンルの演目を極めた円
楽さんの十八番でした。

 あらすじをかいつまんで言うと。

 著名な彫刻師に息子がいた
 ↓
 彫刻師と取引のあった問屋は、彫刻師の死後、零落した母子
を見かねて、息子の作ってくる作品ならどんなものでも買って
いた
 ↓
 ところが、息子は稼業に身が入らない。作る作品どれもがデ
キが悪い。気合を入れようと、問屋が演技でキレて「身投げす
るか首をくくるかして死ね」と息子をののしる
 ↓
 真に受けた息子が家に帰ると母が異変に気づく
 ↓
 母は「死ぬなら死んでも良いが、形見がほしいから、菩薩を
彫れ」といい、息子は三日三晩、一心不乱に彫る
 ↓
 完成品を見て母は満足そうにうなずく。「30両、びた一文欠
けても渡してくるな」と告げ、「ノドが渇いた」と、茶わんの
水を息子と分け合って飲む
 ↓
 問屋へその菩薩を持っていくと、亡くなった父の作品と勘違
いする。自分のだというが信じてくれない。足の裏に彫った自
分の銘を見せ、ようやく納得してくれる
 ↓
 完成させるまでの事情を聞いた問屋、茶碗の水を出がけに半
々に分け合って飲んできたくだりまで聞いて血相が変わる。「
それは水杯じゃないか!早く帰れ!」
 ↓
 母の名を叫びながら、息子は家へ駆け戻る。しかしすでに、
母は自害した後だった
 ↓
 その後、精進に精進を重ねた息子、江戸の名工と呼ばれるま
でになった

 立川流あたりだと、母は生かしておくオチをつけることもあ
るようですが、円楽さんは殺します。ばっさり。

 座布団から身を乗り出し、手と扇子をタタミにばたつかせ、
全身をマイクに「ダダダッ」とにじり寄らせる。

 戸を突き破って中へ駆け込む息子もかくや。

 「ああ、おっかさん、おっかさん…」

 絞る声、ゆがむ顔。テレビの笑顔はどこへやら。

 もう、満場すすり泣き。
 私も天井を見上げ、歯を食いしばって泣きました。

 良いお話が聞けたから、私も浜野矩随のように改心して仕事
に精を出すようになったかというと、全然そんなことはありま
せんでした。

 相変わらず、もやもやした気持ちのまま出社していましたが
、そのうちに、気分の切り替えがうまくなりました。

 自分の境遇に不平不満を漏らしながら生きるより、いまの自
分の立ち位置で、精いっぱいの出来ることと、楽しみを見つけ
て生きた方がいい。
 そう思うようになったからです。

 自分の仕事をバカにしなくなってみると、華々しさこそない
ものの、日々のワークの中に、隠れたおもしろさがあることに
気づきました。

 それで、気分的に楽になっていきました。

 そして10年。
 私はまだ、同じ仕事を続けています。

 円楽さん、もう一度、あなたの高座が聞きたかった。

 浜野矩随。
 いまなら、流す涙の後味が、あのころとは違う気がするので
す。

 ご冥福を。

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コメント

凛さん・・

や~まだに 「座布団五枚って!」・・持ってこさせるほどの お話でした・・

投稿: binboupapa | 2009年11月 1日 (日) 21時21分

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